うらばなし #20

衿団長&フクちゃんの大ボケ怪奇ファイル その4

ファイル7 女の子がやってくる!
 旗揚げ公演「街は囁いて」に向けて稽古を重ねる団員たち。何もないゼロからのスタートで半年間稽古を積み上げ、舞台稽古が目の前に迫っていた。
 そんなとき、うれしいメールが届いた。団員募集の広告を見た人からの稽古を見学したいというメールだ。

 われらが衿団長は、早速この嬉しいニュースを団員たちに伝えた。
 「今度の稽古、女の子が見学に来るよ♪」

 男性の方が多いわが劇団にとって、女性が増えることはとくにうれしいことだ。まして、衿団長にとっては自分と近い年代の女の子が劇団に入ってくれることは、一層うれしいのだろう。

 そして稽古当日、いよいよメールをくれた人が見学にやってきた!

 だが、姿を現したのは……男。

 その後、旗揚げ公演で照明を担当し、第二回公演以降は役者や脚本を担当していくことになる前ちゃんである。

 女の子がやってくると聞いていた団員たちは、心の中で「……え?」。

 原因は、前ちゃんの名前にある。下の名前が”まさみ”なので、衿団長が女性であると思いこんでしまったのだ。

 まあ、仕方ないといえば仕方ない。世の中には”かおる”や”ひろみ”といった、女性に間違われやすい名前の男性がいることはたしかだ。
 前ちゃんにしても、子どもの頃から何度も女性と間違われた経験はある。

 だから、女性と間違えてしまったことは、よしとしよう。

 だが、しかし……

 年齢についてはメールに一切書いていないのに、なぜ”女の子”だと思ったのか!?

 きっと、世の中のデマとかって、こういう人たちが発端になっているんだと思う。

                   
                   
周囲の人間を巻き込む二人は歩く局地的災害

ファイル8 人の話は聞け
 第五回公演「夢の化石」の稽古をする団員たち。
 フクちゃん演じる市役所の課長が、二十年間、課でずっと引き継いできて今年度やらなければいけない仕事を思い出して、「わあ、どうしよう、どうしよう!」とパニックになるシーンを練習していた。

 だが、表情がまるで笑顔に見え、「わあ、どうしよう、どうしよう!」という台詞も喜んでいるように聞こえる。
 なので、演出からダメ出しを。

 演出 「あの、フクちゃん、今のシーン、まるで喜んでいるみたいに見えるんですよ」
 フク  「え、だって喜んでるんじゃないの?」
 演出 「いや、違いますよ! 何で喜ぶんですか?」
 フク  「だって、(やらなきゃいけない仕事を)思い出したから」
 演出 「違います! 思い出したから、パニックになっているんです」

 脚本を読む限り、どうしても喜んでいるシーンには見えないのだが……。このすぐ後に、主役の部下から「深呼吸して落ち着きましょう」と言われるんだし。
 それに、台本読みのときだって、そんな読み方せずに、ちゃんとパニックになっている感じで読んでいたのに……。何で、これまでやらなかったようなことを、突然やってしまうのか。

 とにかく、求めている演技と違うので、パニックになっている演技を指導した。

 そして、本番に向けて稽古は着々と進んでいき、数ヶ月後――

 また当該シーンで、フクちゃんが喜んでいるみたいに見えてしまう。

 演出 「あの、フクちゃん、また今のシーン、喜んでいるみたいに見えるんですよ」
 フク  「え、だって、(やらなきゃいけない仕事を)思い出したから」

 だからよおォォォォォォォッッ!

 聞けよ! 人の話をさ!
 何で、こんなデジャヴを味わわされなければいけないのか……

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